●ブランドとモデルと芸術家の優雅な関係(上)

「広告とは商品についてのパワフル・エモーションを伝達すること」
−−カルバン・クライン 

 毎回、シーズン初めには各ブランドから、顧客へ向けて挨拶状が届く。たいていは「新作が入荷しました」といった内容なのだが、同時にカタログやポストカードが入ってることも多い。
 そして、しばらくするとそのポストカードに使われた写真がファッション雑誌に広告として載ることとなる。
 いわば、その写真はブランドのシーズンテーマや、雰囲気、一押しの商品を1枚で表したものであり、シーズンを特徴付けるもので、ブランドの顔とも呼ぶべきものである。
 ブランドがただのマークや人の名前ではなく、ライフスタイルも表現するようになってから広告イメージの重要度はますます高まってきた。実際のスタイル以上に広告が表現するブランドイメージが商品の売上を左右する。もちろん、そのイメージを最初に作りだすのは、デザイナーだが、実際に消費者にそのイメージが届けられるのは、ファッション写真やビジュアル広告である。
 例えば1980年、カルバン・クラインはジーンズを発売するにあたり、モデルにブルック・シールズを起用。彼女に「私とカルバンの間には何もない」と言わせた広告はファッション史にも広告史にも残る衝撃的な作品だった。
 ここでのポイントはこの広告フォトがジーンズだということだ。ドレスに比べて、デザイン面での差別化が難しいジーンズにおいて、広告イメージで見事な差別化を図ったのである。
 カルバン・クラインはビジュアル写真が持つ表現力にいち早く気づいていたデザイナーと言えるだろう。そこには、写真家とともに、新しい時代を表現できるモデル、ケイト・モスがいた。
 過去のマネキンのようなモデルではなく、確固とした個性と存在感を持つ新しい時代のモデルである、ケイト・モスを得て、カルバン・クラインのイメージは固まった。
 一方、ラルフ・ローレンが追及しているのは古きよきアメリカである。オフには体になじんだジーンズをはき、まるでカウボーイのような生活をしながら、ビジネスでは英国伝統のスーツを着こなす。実際にアメリカ人があこがれるライフスタイルを広告で表現するのである。
 実際にユーザーが服を買いに行くとき、もちろんその服のデザインや色、スタイル、素材が気に入ったとか、デザイナーやブランドが好きとかいろいろな理由があるだろう。しかし、重要なファクターの一つとして、そのイメージを身に付けるという要素があることを否定できない。
 そこから、広告に使われるファッションフォトの存在感はますます高まる。リチャード・アベドンやマリオ・テスティーノがファッション誌のために撮影した写真はヴィジュアル面から見ても、まさに芸術と呼ぶにふさわしい出来ばえだった。これらの写真を、フォトグラファーが自らの作品として発表していることでも、明らかである。いまや、マリオ・テスティーノの撮影料は1日で5万ドル以上といわれている。
 1954年にペルーのリマ市で生まれたマリオは大学で経済学などを学んだあと、ロンドンで写真の世界に入り、グッチやヴェルサーチの広告フォトで有名になった。
 さらにブランドとモデル、写真家を結びつける有名スタイリストも存在する。グッチの復活を果たしたのは、トム・フォード以上にカリン・ロイトフェルドの存在が大きいといわれている。
 彼女は、ヴァンタン誌を経て、エル在籍中にマリオ・テスティーノに出会い、フレンチ・ヴォーグのディレクターをしながら、コンサルタントとしてグッチの広告キャンペーンにかかわった。
 また、ハーパーズ・バザー誌のメラニー・ウォードは、カルバン・クラインの広告つくりにも関与している。さらに、インタビュー誌のエディターだったヴィクトリア・バートレットはミュウ・ミュウのイメージつくりを、ブランド立ち上げ時から参加している。
<つづく>

[Gin and it 2002.11]

 

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