「ブランドとモデルと芸術家の優雅な関係(下)」
 ファッションがトレンドを生み出すといっても、まだ誰も見たことのないようなトレンドを毎シーズン、生み出していくことは難しい。とくに、情報があっという間に伝わり、誰もがトレンドを追いかけている現代においては、すべては過去のリニューアルといわれても仕方がない状況になりつつある。
 そこで、求められるのがイメージによる差別化であり、役立つのがファッションフォトによるシーズンキャンペーンとなる。
 ファッション写真をさかのぼれば、19世紀、当時の王侯貴族によるプロマイドに行き着く。彼らが身に付けた衣服がいわゆる流行の情報源であったわけだ。しかし、そこでは生まれたばかりの写真は、いわば肖像画の域を出るものではなかった。
 やがて、20世紀初頭、ファッション誌が次々に創刊されモードの世界が商業的に拡大してゆく過程で、最新ファッションを紹介する手法はイラストから写真へと変化していく。
 戦後、ファッション写真はアーヴィング・ペンとリチャード・アヴェドンにより、大きな変化がもたされる。肖像画という芸術的モチーフから始まったファッション・フォトは大衆化とともに商業主義を加えつつ、新たな芸術分野へと到達したのである。
 この流れの中で、最も影響を与えたのがカルバン・クラインのブルース・ウェーバーと組んだアンダーウェアのキャンペーンであり、80年代にはヘルムート・ニュートン、ブルース・ウェーバー、90年代にはリチャード・アヴェドン、スティーブン・マイゼルと組んだジャンニ・ヴェルサーチであった。これらのフォトはモデルたちの美しさも際立たせることとなり、スーパー・モデルブームへとつながっていく。
 さらに、トム・フォードとミウッチャが登場したグッチとプラダもこの流れに乗り、高級であることで、定番化していたイメージをリニューアルした。
 一方で、この2ブランドは近年、抑えた内向的なイメージへと変化しつつもある。ヴェルサーチは、どのフォトグラファーと組んでも、死ぬまで(死んでも)ヴェルサーチでありつづけた。しかし、ブランドイメージは時代に合わせて少しずつではあるが、変化することが求められる。だが、ユーザーは一般的に変化を嫌うものである。
 そこで、デザイナーはフォトグラファーを変えるのである。デザイナーが戦略としてフォトグラファーのイメージを借りたり、利用するわけである。
 もちろん、ここで述べたのはあくまでも一例に過ぎない。ブランドイメージはデザイナーとフォトグラファーだけによって作られるものではない。歴史や伝統、あるいはプレス、モデル、メーキャップやヘア・アーティストなどのチームによる力も大きい。ただ、一ついえることは、イメージカタログはただの商品カタログではなく、ファッション芸術を最も表現したものなのである。

 ちなみに、2002秋冬の各ブランドのファッションフォトでは、

PRADA/プラダ
モデルは、アンバー・バレッタ。写真はスティーブン・マイゼルによる幻想的なビジュアル。ブラインドをのぞくバレッタはどこを見ているのだろう?

GUCCI/グッチ
あえてモノトーンの色調で、モデルは新鋭、ナタリア・V。撮影はマリオ・テスティーノ。

Giorgio Armani/ジョルジオ・アルマーニ
パオロ・ロベルシ撮影で、モデルはナターシャ・V。きっと正面を見据えたナターシャの上半身を写した、まるで彼女の宣材写真のよう。それでいながら、これだけの存在感があるのは、彼女の素材のよさか、アルマーニの重厚さか。

VERSACE/ヴェルサーチ
写真はスティーブン・マイゼル。モデルはリンダとアンバー。ヴェルサーチのロゴの前に二人を配した。

VALENTINO/ヴァレンティノ
写真はまた、マイゼル。キャロライン、アヌック、ジャケッタら数多くのモデルがファーやレザーのジャケット、コートなどを着て立ち並ぶ豪華なビジュアル。私はこれを見て、狩野派の屏風絵が頭に浮かびました。

Dolce&Gabbana/ドルチェ&ガッバーナ
こちらも、マイゼル。モデルはジゼル・ブンチェン。ジゼルが男たちに囲まれ、「美しい女性が故郷のシチリアに帰り、地元の男性を魅了する」というシチュエーションで、まるで映画の1シーンを思わせるようなフォト。

Salvatore Ferragamo/サルヴァトーレ・フェラガモ
カメラマンはジョバンニ・ガステル。モデルはアヌック。スカーフを頭に巻いた彼女の顔を真正面から捉えただけのシンプルな構成ながら、力強い写真に仕上がっている。

MAXMARA/マックスマーラ
またもや、マイゼルが登場(一体、どれだけ仕事してるんだ!)。モデルはステラ・テナント。中央にステラがすっと立つ彼女の存在感を生かしたフォト。

CELINE/セリーヌ
なんと、モデルにはいまや女優のミラ・ジョヴォヴィッチを起用。彼女が裸体にショールだけを見に着けた姿でバッグを持つ衝撃的なフォト。撮影はヴィンセント・ピータース。

CHRISTIAN DIOR/クリスチャン・ディオール
フォトキャンペーンではファンキーなイメージを打ち出すディオールは、ガリアーノがディレクションし、撮影はニック・ナイト。テーマは「ファンキー・フォークロア」で、モデルはジゼル。はじけてます。

YVES SAINT LAURENT RIVE GAUCHE/イヴ・サン・ローラン リヴ・ゴーシュ
こちらも撮影はスティーブン・マイゼル。贅沢にキャロライン、ジャケッタ、カロリーナ、カルメン・マリアの4人を起用。セクシーさを表現しながらも陰影が見事。メンズでもほぼ同じ構図を使用しています。ただ、この4人のモデルがみな、同じように見えてしまうのですが・・・

CHANEL/シャネル
カール・ラガーフェルド本人が、シャネルジャケットを着たカロリーナ・クルコヴァを撮影。カロリーナの表情はYSLの時と全然違います。

DONNA KARAN/ダナ・キャラン
写真はピーター・リンドバーグ。シーズンテーマ「マンハッタン・ブルース」に合わせ、マンハッタンブリッジをバックに、帽子に手をかけコート姿のマニッシュで立つのはエリン・ワッソン。イメージ的にはまさにハードボイルド。エリンもハンフリー・ボガートを思わせます。

Calvin Klein/カルバン・クライン
撮影はイネス・ファン・ラムスウェールデとビノート・マタディン。モデルは今、カルバン・クライン一のお気に入りジェシカ・ミラーで、セクシーさをアピールしています。

Burberry/バーバリー
撮影はあの、マリオ・テスティーノ。ミック・ジャガーとジェリー・ホールの娘、エリザベス・ジャガーを中心にジョー・レイノルドら、若手モデルが多数出演。シーンはバンドの練習風景を思わせる。ってことは中央やや右よりにバーバリーのバッグを持って立つ、エリザベスはリード・ヴォーカル?

[Gin and it]

 
 
Copyright 1998-2003 Gin and it.