「マリア・シャラポワとアーノルド・パーマー」

ロシア出身の女子テニス選手マリア・シャラポワ。シベリアの寒村に生まれ、7歳で米国に渡り、17歳でウィンブルドン(全英オープン)を制覇。その可愛らしいルックスとあわせて、人気も急上昇。CFもモトローラ、キヤノン、タグホイヤーと契約し、自らの香水ブランドまで発売。その人気は衰えることを知りません。映画「ウィンブルドン」のプレミアでグリーンカーペット(テニス映画ということで、レッドカーペットではなく特別に緑のカーペットが敷かれた)に現れた時には主演のキルスティン・ダンストよりも多くのフラッシュが浴びせられたといいます。

一方、アーノルド・パーマーといえば、ゴルフ界における60年代のヒーロー。1929年、米国ペンシルバニア州に生まれ、7歳の頃からゴルフをはじめて、1954年全米アマのタイトルをとってプロ入り。58年マスターズ、60年全米オープン、61年全英オープンを獲得しました。

また、ファッション面においては61年に仲間とともに、自分のブランドを誕生させ、カラフルなゴルフ用傘をモチーフに採用。日本では68年からレナウンによって展開され、ワンポイントマークの先駆けとして、一大ブームを巻き起こします。さらに2000年にはブランドリニューアルを敢行。20歳前後の女性をターゲットに上品なカジュアルを提案する戦略に変更し、ファッション史に残るような成功を収めます。

で、このシャラポワとパーマー、この二人にはスポーツ選手という以外にある共通点があります。どちらも世界最大のマネージメントグループ、IMG(インターナショナル・マネージメント・グループ)に所属しているのです。もともと、IMGは創設者であるマーク・マコーマックが1960年、大学時代にゴルフを競っていたパーマーと「握手による調印」により独占的な代理人契約を結んだことから始まります。

その後、マコーマックは「スポーツ・マーケティング産業」を創造したといわれます。代理人ビジネスを皮切りに70年代はゴルフ、80年代はテニスで利益をあげ、選手と契約するだけでなくテニス大会の運営やゴルフとテニスのグランドスラム大会のテレビ放映権を獲得。彼の信条「最初に、最高の、最大の」をもとに、タイガー・ウッズ、ジャック・ニクラウスらを擁し、世界最大の独立系スポーツ番組TWIを所有。タイラ・バンクス、ケイト・モス、ジゼル、ジェマ・ウォード、ハイジ・クラムなどが所属するIMGモデルズまで事業を拡大しました。IMGモデルズはいまや、スーパーモデルがブームだった時代に一世を風靡したエリートを抜き、モデルエージェンシーのトップに君臨しています。

マコーマックが優れていたのは、単に代理人を務めるだけでなく、スターをビジネスに結びつけることに成功した点にあります。かつて、パーマーは拡大していくビジネスに危機感を感じ、「今はいいが、将来自分が歳を取ったら、どうするつもりなんだ」とIMGの代理人、ジュールズ・ローゼンタールに尋ねたといいます。すると、ローゼンタールは「その頃には我々は、君のビジネスモデルを完成させていて、君がいなくても大丈夫なようになっているから心配しなくてもいい」と答えたといいます。パーマーによると、その後、ほぼその通りになったということです。84年にマコーマックが書いた「マコーマックのマンビジネス」は、ビジネススクールでバイブルのように読まれています。

しかし、2003年5月、「世界最強のスポーツマーケティングブランド」IMGを創設したマコーマックは、自分が関係したスターに囲まれることなく、誰もいないニューヨークの病院で72歳で息を引き取りました。

カリスマ創業者を失ったIMGは、その後、停滞したといわれました。売上は減り、欧州サッカーからは撤退。人と人とのつながりが重要なスポーツ・マーケティング界において、その存在は大きかったといわれます。

そんな中において、シャラポワを獲得。ここ数シーズンのコレクションでジェマの露出の多さは注目に値します。2004年のNFL(アメリカンフットボール)のMVPプレーヤー、ペイトン・マニングもIMGの所属です。もちろん、ジェマやシャラポワがスターになったのはIMGの力というよりも、彼女たちの実力です。しかし、そうした選手を惹きつける魅力が、まだIMGに残っているのも事実です。IMGの従業員は未だにマコーマックの名前を現在形で語るといわれています。しかし、それは彼の精神が今でも残っていることの象徴なのです。これからもシャラポワの活躍と共に、IMGの動向には目が離せません。

ちなみに先の映画「ウィンブルドン」はマーク・マコーマックに捧げられています。

[Gin and it]

 
 
●「混乱続くNYコレクション」(2004.9)

●「さよならトム・フォード、デザイナーとブランド」(2004.3)

●「スーパーモデルの復活とコレクションスキャンダル(2003.10)」

●ブランドブームの終焉?(2003.4)

●ウィノナ・ライダーが欲しかったもの(2003.3)

●ブランドとモデルと芸術家の優雅な関係(下)(2003.1)

●ブランドとモデルと芸術家の優雅な関係(上)(2002.12)

●展示会あれこれ(2002.11)

●「コレクション、パリやミラノでも混乱」(2002.10)

●ニューヨークコレクション無事開催へ(2002.9)

●雨の日にプラダの傘(2002.9)

●カルティエ銀座店訪問記(1998)

●エルメス銀座店オープン、その戦略は?(1998)

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